『R.O.D』第9巻(倉田英之、集英社スーパーダッシュ文庫)感想。

 前半部分では、ヤングメンの大暴れで読仙社壊滅。TVでの香港もろとも水没に続いて不憫な扱い。
 とはいえ……チャイナや五鎮姉妹の登場以来なんだか憎めない存在になってしまった読仙社側も、イギリスでは散々蛮行を働いてるわけで。今回の描かれ方は善玉すぎないか?という気もする。もしかすると四〜五巻あたりの執筆当時は設定が固まってなくて(特に、”おばあちゃん”は文字通りの老婆をイメージしていたのでは?)、四天王の残虐行為手当っぷりにリミッターがかかってなかったのかもしれないけど。(あるいは、チャイナの延命を最優先するあまり四天王が勇み足?)

 一転して後半は、ねねねが日記を読み解くという形で綴られるドニーとヤング読子の過去。
 とにかくもう、今のダメ人間極まった読子さんとは別人としか思えないほど乙女で小生意気なヤング読子と、不器用ながらも誠実なドニーのロマンスが、見ていて微笑ましい。「ヤング読子に萌え」というより、二人の関係を心から応援したい……みたいな。それでいて、洒落っ気のきいたジョーカー演出”図書館デート”が、待ち受ける悲劇をも確実に予感させる。数ある『R.O.D』名場面の中でも屈指の出来映えだったと思う。

 中国編に入って以来、ストーリー展開は遅くなっているものの、一貫して「本」をメインテーマに据えた構成の妙には脱帽しっぱなし。
 以下、個人的推測も混じるけど……
 ジェントルメンとチャイナの対立は、恐らく二人の「肉体的な不老不死」が否定された上で、二人が残した子孫や文明そして書物(※もちろんTV版のような直接変換ではない)といった形で「存在の不滅」に昇華されて決着するんじゃないかと。チャイナはともかく、ジェントルメンが素直に受け入れるかどうかはまた別問題だけど。ジェントルメンが感じた「死の恐怖」に対する疑問にも、「故人の遺志や思い出を残された者が受け継ぐことによって克服できる」と答えられるわけで、その象徴が他ならぬ「本」だ……と。
 二人の調停役を務めようと意気込む読子さんは、おそらく現段階では自分自身の過去が枷になって、その役目をまっとうできないんじゃないだろうか。”ドニーを殺した”後の極まったダメ人間ぶりには、「ひたすら本を読むことがドニーへの贖罪だ」という無意識の想いや、ある種の逃避も含まれていると思う。
 ねねねが読み解いたドニーの日記は、そんな読子の背中を押して、彼女に事態収拾の切り札を与えるはず。……こう考えれば、過去と現在・故人と生者とが「本」を通じて綺麗につながる。
 巧いだけじゃなく、この作者は心の底から本が好きなんだなぁ……と思えて、10巻以降の展開にも大いに期待。ねねね頑張れ。