俺は騙された−−−

 富士見ミステリー文庫『キリサキ』(田代裕彦)読了。見事に騙されました。
 中盤までは《俺の体》の中の《誰か》について確信めいた推測を持ち、「解決篇を読む前に真相を当てるなんて超久々だなあ」などと呑気に構えてたんですが……まさか、ああいうトリッキーなオチになるとは。でもたしかに物語の基本設定から鑑みれば十分アリですね。
(※以下微妙にネタバレ:てっきり自分は、本来の「霧崎いづみ」が《俺の体》に入っているのかと思ってました。不自然なまでに「自分自身の個性」がなかったという話からして”肉体に取り込まれ”やすいだろうし、いじめっ子に対する復讐が動機だと考えれば綺麗にハマるので。……というのが作者の狙ってたミスリーディングだったら、見事にハメられたわけですね(苦笑)。
 あと不覚にも、最後に呼ばれた《俺》の名前について「気付く」まで3分くらいかかりました。アナグラムは苦手だけれど、こういう言葉遊びは好きですね。

 『魔人探偵脳噛ネウロ』のおかげで”ミステリの体裁を取ったエンターティメント”には慣れていたので、事件に超常現象が関与しまくるこの『キリサキ』も十全に楽しめました。解決への過程はさておき、シチュエーションとしては西澤保彦の作品に少し似ているかも?
 これが『トリックスターズ』(久住四季電撃文庫)あたりになると、なまじ「本格ミステリ」としての形式が整いすぎてるだけにアンフェアな部分が気になってしまうんですけど……。

 ちなみに購入動機はタイトルと表紙の天広直人ライクな絵*1。ていうか制服だったんですね、あのゴスロリ衣裳は……。
 とはいえ見掛け倒しな作品というわけでもなく、非情さと甘さがないまぜになった《俺》の思考に頷くことが何度かあったり、いじめっ子への小気味良い反撃シーンに溜飲が下がったり。単なる第三者視点の状況補足かと思われた刑事側の話が、単独でトリックを形成していたのも良かったですね。
 あと何気に、少しずつ女の子っぽくなっていく《俺》が可愛かったです。新井素子の『二分割幽霊綺譚』以来、この手の性転換キャラには弱い自分……。

*1:口絵や挿絵を見直してみたら、ヒロイン以外は天広っぽくないですね。むしろmoo系……というか『此花』シリーズのイベントグラフィックに近いかも。すみません