ぼくたちは闇に心惹かれる

 文庫版『GOTH』夜の章/僕の章(乙一、角川文庫)読了。乙一作品の中では一番クールでスタイリッシュ。
 「しまった、文庫化前に読んでおくべきだった!」というのが正直な感想です。エピソードの並び順的に。百歩譲っても、文庫版に手を出す場合は2冊同時購入&携行が必須ですね。

 各エピソードに叙述トリックの多彩なバリエーションが並ぶので、それが次第にパターンというか「お約束」と化し、安心して読み進めることができました。
 むしろ個人的に興味深かったのは、「リストカット事件」や「土」に代表される異常犯罪者たちの心理を”部分的には理解や共感を促しつつ、やはり常人とはどこか致命的に相容れない”ものとして描写していたところ。
 それと地続きでありながら犯罪者たちともまた違う、いわば読者との橋渡し的存在になっているのが、「僕」と森野という二人の主人公なんでしょうね。
 皮相的には一般人として振舞いながら、その心の奥底には犯罪者よりも冷ややかなものを隠している「僕」。対照的に、人付き合いが苦手でGOTHとしての志向を持ちながらも、本質的には人間臭い森野。読者としての自分たちは、多かれ少なかれ「僕」的な・あるいは森野的な性質を内に秘めていて、両者が天秤のように揺れているのかもしれません。そして、彼ら二人のように隠れた理解者を持つ存在に憧れるのかも……。

 突き詰めていくと、青少年向けのラノベに限らず小説は「読者が主人公に自己投影して共感できれば成功作」なんでしょうね。